弁護士 渡辺
- 勝訴判決
2000年11月29日(水)午後1時10分、横浜地方裁判所101号法廷に、
いすゞ鑑定書情報公開請求訴訟の判決が言渡された。被告川崎市及び川崎市長側は、
敗訴を覚悟したかのように一人の姿もない。
傍聴に駆けつけたかわさき市民オンブズマンの面々が見守る中、岡光民雄裁判長
の声が響く。
「主文。被告川崎市長が…
勝った!
敗訴の主文は、「原告の請求を棄却する」で始まる。「被告」で始まる主文は
勝訴判決なのだ。
岡光裁判長の声は続く。
「被告川崎市長が原告に対して平成10年12月14日付けの10川財土第565
号をもってした公文書非公開決定を取り消す。」
- 用地買収事業に支障はない
本件情報公開請求訴訟は、川崎市が買い取る予定であったいすゞ自動車の高専跡地
の価格に関する鑑定書の公開を求めた事件である。川崎高速縦貫道の用地買収に関す
る汚職事件で、代替地を三田工業に不当に安く払い下げて、その分いすゞ自動車に高
く買わせる代わりに、川崎市が本件高専跡地を高く買取るという密約が存在したが、
汚職事件の発覚により実行されずに今日に至っているという件である。
地方自治体が取得した後の土地の鑑定書については、既に開示を認めた判決が存在
するが、取得前の土地についての判決は初めてである。
判決は、鑑定書の公開により、川崎市の行う用地買収事業に支障が生ずるという川
崎市の主張について、次のように明確にこれを排斥した。
「本件鑑定書が…公開されたからといって、近隣の地権者が、自己の土地の売却に
際し、土地毎の個別の差異を無視して、本件土地の価格と同一の価格に固執するとは
考え難いし、仮に固執する者がいても、実効性のある行動ではない上、保護に値する
ことでもないから、本件土地の買受予定価格を意味する本件鑑定書の開示が、近隣の
地権者からの代替地買受事務にとって有意な支障になるということはできない。仮に
被告市が近隣地権者からの土地の買受けに成功しなくても、その原因が本件鑑定書の
開示にあるということは考え難いのであり、真の実質的な原因は、地権者が土地を換
金したくない強い意向を有しているか、地権者の希望売却価格が被告市の買受申入価
格と隔たりがあるという点にあると考えられるのである。」
- 一般的事前開示にまでは至らず
しかし、川崎市が取得する前の土地であることに関しては、一般的に開示を認める
までには至らず、本件の場合は、川崎市といすゞとの間で売買の合意ができていたた
め取得後と同視して良い特殊な事例であり、鑑定書の公開によっても買収事務に支障
が生じない場合であるから公開を認めるとの判断に留まった。
今後、本件判決に対し、被告川崎市がどのような態度に出るかが注目される。
記録:江口武正
mailto: t_eguchi@jb3.so-net.ne.jp
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